矯正治療法
歯科矯正用アンカースクリューの併用
歯の移動効率や治療効率、歯の移動限界量を高め、より効率的に質の高い治療結果を。
小さな生体親和性の高い骨ネジ(=歯科矯正用アンカースクリュー)を歯茎の歯槽骨部に埋め込み、硬く動かない骨に取っ掛かりを求め、骨を固定源とすることで、望ましくない反作用をキャンセルして望ましい作用だけを得て、目的の歯だけを動かすための効率的な矯正治療法です。この歯科矯正用アンカースクリューを絶対的な固定源と呼び、治療期間の短縮、精密で質の高い治療、治療の確実性の向上を図ることができます。
従来では難しかった難症例の治療可能となり、また、歯を抜かずに矯正治療を達成できる可能性も広がり、従来の矯正治療で得られる治療の限界幅が飛躍的に広がったと言えます。患者さんの負担を軽減し、安全に、効率的に、シンプルに、質の高い治療結果へと導くことができます。
歯を喪失した時などに差し歯として用いる歯科用のデンタルインプラントとは全く別の物、別の目的です。歯科矯正用アンカースクリューの装着に伴う施術は、現在では非常に低侵襲(”体への負担がとても少ない”という意味)で安全で、かつ簡便、局所麻酔の使用で痛みや腫れもほとんどなく埋入・装着が可能です。治療後は歯科矯正用アンカースクリューを取り除き、瘢痕などの傷跡が残る心配もありません。
治療期間の短縮・患者さんの治療への協力負担の軽減
従来の歯の動かし方
例えば、前歯が出ている症状では、前歯を引っ込めるスペースを確保するために、抜歯が必要となる場合があります。前から4番目の歯を抜いた場合で説明します。
この状況では、前歯3本を一塊りとして後ろに動かしたいところですが、その場合「奥歯3本vs前歯3本」の綱引き状態となり、力のバランスから、前歯を後ろに動かす作用に対して、奥歯が前に動く反作用も相応に大きく働いてしまいます。それを防ぐため、まずは「奥歯3本(もしくは3番目以外の全ての歯5本)vs前歯1本」で3番目の歯だけを引っ張って、その後に残りの前歯2本をまとめて動かすという「2段階の移動」を行います。(しかし、それでもわずかに反作用は生じて奥歯は前に動いてしまいます)
歯科矯正用アンカースクリューを併用すると
一方で、歯科矯正用アンカースクリューを用いると、奥歯と違ってスクリューは強固に固定されているので、一度に前歯3本をまとめて引っ張って移動することができます。結果として治療工程を従来法と比べて簡略化することが可能となり、治療期間が短縮されます。(治療期間が短くなることで、虫歯の発生リスクも減少します)
患者さんの負担軽減
従来は、上記のように動かしたくない歯まで動いてしまうことを防ぐために、ヘッドギアやパラタルバーといった付加的な矯正装置を使用します。これらの付加的な装置は患者さん自身が、決められた時間・用法で毎日使用する必要があり、装着に伴う違和感、皆様自身の治療への協力度の高さが求められ、それによって治療結果が左右されてしまいます。一方で歯科矯正用アンカースクリューを用いる場合は、患者さんの治療への協力度に依存することなく、安定してスムーズに、治療を進めていくことが可能となります。
歯の移動量の限界幅が広がる
歯科矯正用アンカースクリューの使用により、従来では動かせなかった方向に歯を動かせたり、従来では不可能だった移動量(距離)の達成が可能になりました。歯科矯正用アンカースクリューを絶対的な固定源として移動の軸として用いることで、歯の動きをより確実にコントロールでき、大きな移動量の治療目標を達成することができます。
01 抜歯せずに治療を達成できる可能性が上がる
奥歯をさらに奥に動かす治療は、従来の矯正治療ではほとんど不可能に近く、できたとしても動かせる量はわずかなものでした。矯正用アンカースクリューはそれを可能にします。
それによって、従来であれば小臼歯などを抜かなくてはならない症状でも、歯を抜かずに治療できる可能性が高くなりました。また、単にでこぼこを並べると口元が突出してしまうケースでも、突出を抑えながらでこぼこを改善することが可能です。本症例では、治療開始時、でこぼこの程度が大きく認められました。しかし横顔の側貌として口元の突出感が大きくはなく、またご本人より親知らず以外の28本の永久歯を保存して治療を行いたいという要望がありました。でこぼこの量、口元の突出度、患者ご本人の要望、治療によって達成できる歯の移動限界量、などを勘案し、本症例では歯科矯正用アンカースクリューを併用した矯正治療を行い、全ての永久歯を親知らずを抜歯した後方へと動かすことででこぼこを解消し、同時に、口元がさらに前方へと出ないように配慮して治療を行いました。矯正治療上のリスクとして、虫歯の発生、歯根吸収、叢生の解消に際して口元が元以上に突出してしまう、などが考えられた。しかし本症例では幸いにも、そのような望ましくない偶発症状は認められず、無事に良好な治療結果へと至った。31歳女性。治療期間1年11ヵ月。動的治療が完了するまでの治療回数:17回。お悩み:でこぼこ。治療内容:上下左右の第三大臼歯(8番・親知らず)を抜歯した矯正治療。矯正装置:舌側矯正装置。費用:装置料・基本契約施術料として135万円(税別)。その他として検査料3万5千円、診断料1万5千円、毎月の調整料3〜6千円(税別)。自由診療であり治療費は全額自己負担、健康保険証は使えません。診断名:上下顎前突症。
02 難易度の高い症状の治療
今までは難しかった歯の移動方向や移動量を得ることが可能となり、より難易度、重症度の高い症状でも治すことが可能です。結果として、質の高い治療結果となります。本症例では、治療開始時、大きなでこぼこ、口元の前方への前突感、大臼歯部の咬合関係の大きなズレ、などが認められ難症例としての所見を呈していました。でこぼこの解消、口元の前突感の改善、咬合関係の改善、などを勘案し、本症例では歯科矯正用アンカースクリューを併用した矯正治療を行い、小臼歯を抜歯した空隙を用いて叢生や口元の前突感を改善し、さらに歯科矯正用アンカースクリューを固定源として咬合関係のズレを改善するために、上顎歯列全体の後方への移動を図りました。矯正治療上のリスクとして、虫歯の発生、歯根吸収、口咬合関係の改善が図られない、などが考えられました。しかし本症例では幸いにも、そのような望ましくない偶発症状は認められず、無事に良好な治療結果へと至りました。26歳女性。治療期間3年4ヵ月。動的治療が完了するまでの治療回数:26回。お悩み:でこぼこ、八重歯、口元の前突感。治療内容:上下左右の第一小臼歯および第三大臼歯(8番・親知らず)を抜歯した矯正治療。矯正装置:唇側からの矯正装置。費用:装置料・基本契約施術料として90万円(税別)。その他として検査料3万5千円、診断料1万5千円、毎月の調整料3〜6千円(税別)。自由診療であり治療費は全額自己負担、健康保険証は使えません。診断名:叢生を伴う上顎前突症。
03 外科矯正を避けられる、もしくは手術の負担を軽減できる
外科矯正が必要な難易度・重症度の高い症状でも、手術を行わないで矯正治療だけで改善できたり、手術をしたとしても、手術時の骨の移動量を減らすことで、手術にかかる負担を軽減することができます。
例えば重度のガミースマイルの場合、本来ならば上あごを持ち上げる手術を行いますが、インプラント矯正によって手術をすることなく症状を大きく改善することができます。
04 歯の圧下が可能
これまで困難だった、歯の圧下(歯茎の骨の中に押し込む治療)が可能です。それによって、ガミースマイル(笑った時に歯茎が見えすぎる症状)や、開咬(奥歯はかんでいるのに前歯が開いてる)、また、正面からお顔を見た時に、上の歯列が左右に傾いているような症状の改善も可能となりました。本症例では、治療開始時、でこぼこ、前歯がかみ合わない開咬、口元の前方への前突感、大臼歯部の咬合関係の大きなズレ、などが認められました。でこぼこの解消、口元の前突感の改善、開咬の改善、咬合関係の改善、などを勘案し、本症例では歯科矯正用アンカースクリューを併用した矯正治療を行い、大臼歯部を圧下(沈みこませる)し、上顎歯列全体の後方への移動を図ることで、開咬と前突感の解消を達成しました。矯正治療上のリスクとして、虫歯の発生、歯根吸収、口咬合関係の改善が図られない、などが考えられました。しかし本症例では幸いにも、そのような望ましくない偶発症状は認められず、無事に良好な治療結果へと至りました。23歳女性。治療期間2年4ヵ月。動的治療が完了するまでの治療回数:20回。お悩み:でこぼこ、開咬、口元の前突感。治療内容:上下左右の第三大臼歯(8番・親知らず)を抜歯した矯正治療。矯正装置:唇側からの矯正装置。費用:装置料・基本契約施術料として80万円(税別)。その他として検査料3万5千円、診断料1万5千円、毎月の調整料3〜6千円(税別)。自由診療であり治療費は全額自己負担、健康保険証は使えません。診断名:開咬を伴う上顎前突症。
05 動かしたい歯だけを、精密に動かすことが可能
部分矯正など1本だけ歯を動かしたい場合にも、歯科矯正用アンカースクリューを併用した矯正治療は効果的です。従来は1本の歯を動かすような場合、それ以外の多くの歯に矯正装置を装着する必要がありました。しかし歯科矯正用アンカースクリューを併用した矯正治療では、動かしたい歯だけに矯正装置を付ければ済むため、違和感や負担が少なく治療できます。本症例は、十数年前に矯正治療を受けられた既往があり、その後、左下6番目の歯が虫歯から根の治療までと進み、将来的な予後が不安視される状況でした。そこで、左下8番目の親知らずをまっすぐに並べることで保存し、将来、左下6番目の歯が保存不可能となった際に使えるように整えることを目的としました。ご本人のご要望もあり、歯列全体への矯正装置の装着は避け、左下8番目の親知らずのみの部分矯正治療を行いました。本症例では歯科矯正用アンカースクリューを併用した矯正治療を行い、動かしたい目的の歯のみを選択的に動かす努力を図りました。矯正治療上のリスクとして、虫歯の発生、歯根吸収、咬合関係の変化などが考えられました。しかし本症例では幸いにも、そのような望ましくない偶発症状は認められず、無事に良好な治療結果へと至りました。22歳女性。治療期間7ヵ月。動的治療が完了するまでの治療回数:7回。お悩み:左下8番の近心傾斜の改善。治療内容:過去の矯正治療で上下左右の第一小臼歯を抜歯済み。今回の部分矯正治療では残り全ての歯を非抜歯で行なった矯正治療。矯正装置:歯科矯正用アンカースクリューを併用した唇側からの部分矯正治療。費用:装置料・基本契約施術料として9万円(税別)。その他として検査料3万5千円、診断料1万5千円、毎月の調整料3〜6千円(税別)。自由診療であり治療費は全額自己負担、健康保険証は使えません。診断名:下顎左側8番の近心傾斜を伴う不正咬合症。
06 前歯だけを選択的に後ろに下げることが可能
従来の矯正治療では、前歯を後ろに下げる時に、抜歯して得られたスペースに対して奥歯と前歯を引っ張り合わせることで前歯を下げていました。しかし前歯を後ろに下げる作用に対して、奥歯が少しは手前にずれてしまうと言う反作用が生じてしまいます。
インプラント矯正を用いることで、奥歯への反作用を生じることなく、前歯だけを選択的に抜歯スペースに対してしっかりと下げることが可能となりました。矯正の治療結果の質を向上させるとても画期的な方法と言えます。骨格的に下あごの位置が後ろに下がっていて、なおかつ、上の前歯が前方へ突出していることによる上顎前突症でした。成人の治療では、成長期に見られる下あごの成長コントロールによるかみ合わせの改善が見込めません。そのためより慎重に歯をコントロールする技量が治療上必須となります。この症例では矯正用アンカースクリューを用いることで、抜歯して得られた隙間を最大限に口元の審美性の改善に利用しています。矯正治療上のリスクとして、虫歯の発生、歯根吸収、歯肉炎・歯周炎の発生、などが考えられた。本症例では幸いにも、そのような望ましくない偶発症状は認められず、無事に動的治療を完了することができた。23歳女性。治療期間2年4ヵ月。動的治療が完了するまでの治療回数:20回。お悩み:出歯、口元の前突感。治療内容:上下左右の第一小臼歯(4番)を抜歯した矯正治療。矯正装置:唇側からの矯正装置。費用:装置料・基本契約施術料として90万円(税別)。その他として検査料3万5千円、診断料1万5千円、毎月の調整料3〜6千円(税別)。自由診療であり治療費は全額自己負担、健康保険証は使えません。診断名:上顎前突症。
07 咬合平面の傾きを改善することが可能
通常のワイヤーの矯正治療では、咬合平面の傾斜を改善することは不可能とされてきました。しかしインプラント矯正を用いれば、比較的に容易に改善が可能です。美しいスマイルラインを得る上でも重要な使用方法と言えます。本症例は、骨格的に下あごの位置が右側へ偏位していて、なおかつ、上の歯列自体の咬合平面が左下がりを示す下顎側方偏位症でした。上顎の左下がりの咬合平面を改善するために、上顎左側の前歯から小臼歯にかけての歯列を上方にあげる、つまり、圧下を図ることで主訴である咬合平面の傾きを改善する治療計画としました。歯の圧下は、歯の移動方向の中でも最も難しいとされており、歯科矯正用アンカースクリューを用いることで、積極的に圧下を達成することとしました。矯正治療上のリスクとして、虫歯の発生、歯根吸収、歯肉炎・歯周炎の発生、などが考えられました。本症例では幸いにも、そのような望ましくない偶発症状は認められず、無事に動的治療を完了することができました。30歳女性。治療期間1年7ヵ月。動的治療が完了するまでの治療回数:14回。お悩み:叢生および上顎咬合平面傾斜の改善。治療内容:上下左右の第三大臼歯を抜歯を行なった矯正治療。矯正装置:歯科矯正用アンカースクリューを併用した目立ちにくい唇側からの矯正装置。費用:装置料・基本契約施術料として80万円(税別)。その他として検査料3万5千円、診断料1万5千円、毎月の調整料3〜6千円(税別)。自由診療であり治療費は全額自己負担、健康保険証は使えません。診断名:下顎側方偏位症。
施術の流れ
スクリューは、直径1.4〜2mm、長さ6〜10mm程度で、生体親和性の高いチタン製の微小なネジです。施術は非常に簡単で、いわゆる木ネジと同じ要領でドライバーで歯槽骨に埋入します。出血・痛み・腫れもほとんどなく、実際の処置時間は1本あたり平均的に2〜3分程度で、当院内で行います。
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レントゲン・口腔内診査からスクリューの埋入部位・埋入方向を検討します。
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切開は行わず、消毒と少量の部分麻酔を行い、スクリューをドライバーで埋入していきます。(抵抗が強く、スクリュー破折の危険性がある場合は、ドリルで誘導孔を形成する場合もあります。)
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しっかりと植立されたことを確認し、消毒します。すぐに矯正力をかける場合もありますし、ある程度の治癒期間を設けてから矯正力をかける場合もあります。
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抗生物質・鎮痛剤の処方を行い、清掃などの指導を行います。
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スクリューは必要がなくなれば取り除きます。ほとんどの場合、麻酔は不要です。1分程度で撤去は終わります。
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傷跡は2〜3日で完治し、傷跡などは一切残りません。
注意点
01 お口の中の衛生管理
特に日常生活における制限はありません。異物感もすぐに慣れてきます。しかし、スクリュー埋入部位を不衛生にすると、感染により歯茎の腫れ等がおこる場合があります。日頃よりお口の中の衛生管理に気をつける必要があります。施術時にスクリュー周囲のブラッシングや清掃についてお話しいたします。
02 年齢について
通常、骨がしっかりする12歳以降が適しています。性差や個人差もあります。また、高齢の方の場合には、年齢の増加に伴って骨の密度が薄くなることにより、スクリューの骨埴状況が悪くなる場合もあります。そのような場合には、また再度、より骨埴状況の良い部位を探し再埋入を行います。
03 喫煙について
喫煙は、傷の治癒や歯肉炎・歯周病のリスクファクターです。スクリューの脱落率とも関連があると言われ、可能であれば、禁煙されることをお勧めいたします。
04 全身的な病気のある場合について
全身的に重い病気のある場合、出血性の病気、口腔内乾燥症、免疫不全、白血球機能不全、骨に関する病気のある場合、糖尿病、ステロイドの投与を行っている場合、高血圧、妊娠中などの場合は、まずは当院までご相談ください。
05 スクリューの再埋入の可能性
十分に注意をしていても、骨の状態や、感染等によりスクリューが緩んだり、外れることがあります。その場合には再度埋入する必要があります。(自然脱落の場合には、再度費用はかかりません。)ただし最近では埋入機材の進歩により、脱落してしまう割合は格段に減少しています。
また、治療が進み歯が動いてくると、スクリューが歯の移動の邪魔になってくる場合があります。このような時には、再度スクリューを別の場所に埋入し直します。